2025年5月8日、アメリカ・アリゾナ州のケイティ・ホッブス知事が、暗号資産に関する新たな法案「HB2749」に正式に署名しました。
この法案により、「ビットコインおよびデジタル資産準備基金(Bitcoin and Digital Assets Reserve Fund)」が設立され、アメリカにおける公的なデジタル資産管理の新たな枠組みが誕生しました。
この基金は、未請求のデジタル資産を安全かつ効率的に管理することを目的としており、州の財政に暗号資産を直接組み込むことはありません。
制度設計の核心には、州が責任ある形で市民のデジタル資産を保護するという強い意志が込められています。
HB2749法案の概要と制度設計のポイント
HB2749(House Bill 2749)は、次のような内容を含んでいます:
- 「ビットコインおよびデジタル資産準備基金」の新設
- エアドロップ、ステーキング報酬、利息など、3年間未請求の暗号資産を基金に移管
- アリゾナ州財務局が安全に資産を保有・管理する体制を構築
- 基金内のデジタル資産のうち最大10%を州の一般財源へ移管可能(ビットコインは対象外)
この制度により、アリゾナ州は暗号資産を「保護・管理すべき財産」として法的に位置づけることとなり、全国的にも先進的なモデルケースとなっています。
制度導入の背景:なぜ今「暗号資産準備基金」なのか
アリゾナ州がこの制度を導入した背景には、次のような要因があります:
- 急増する未請求のデジタル資産への対応
- 仮想通貨の普及にともなう行政負担の増大
- 相続・死亡時の資産管理ニーズの高まり
ビットコインなどの暗号資産は、保有者の死亡や秘密鍵の紛失によって誰にも引き継がれず、永久に失われるリスクを抱えています。
こうした課題に対し、公的機関が責任を持って管理する体制を整えることは、今後のデジタル資産社会における信頼構築に欠かせません。
他州との比較:アリゾナ州の先進性とは
暗号資産に関する法制度は州ごとに異なりますが、アリゾナ州の取り組みは以下の点で特筆されます:
- テキサス州:マイニング企業の誘致と電力支援政策
- ワイオミング州:ブロックチェーン特化型法整備、DAO法人格の承認
- ニューヨーク州:厳格な規制「BitLicense」の適用
これらと比較して、アリゾナ州のアプローチは、資産の「管理」と「保全」にフォーカスしており、制度的・実務的な完成度が高いことが特徴です。他州がこの制度を参考にする動きも期待されています。
市場への反応:仮想通貨業界とビットコインの価格動向
HB2749の成立後、仮想通貨市場では以下のような反応が見られました:
- ビットコイン価格の一時的上昇
- 法案を評価する声が暗号資産業界やメディアで拡大
- 「政府による管理の第一歩」としての評価が進む
短期的な価格変動は限定的ですが、制度整備が市場に与える信頼性の向上は中長期的に重要な意味を持ちます。
特に、ビットコインを一般財源から除外した点が注目されており、特別な資産としての扱いが強調されています。
国際的な影響と日本への示唆
アリゾナ州の動きは、今後次のような国際的・国内的影響を与える可能性があります:
- 他州における類似制度の立法ラッシュ
- 米国連邦レベルでの統一的暗号資産管理制度の整備
- 日本における仮想通貨の相続・保護制度への政策的波及
日本でも相続トラブルや秘密鍵管理の問題が増加する中で、地方自治体や政府がこうした制度を取り入れることで、暗号資産の公的管理への一歩を踏み出す可能性があります。
結論:HB2749が切り開く未来
アリゾナ州のHB2749法案は、暗号資産の公的管理に対する新たな道を切り開くものであり、単なる規制ではなく、実際の資産保護と市民支援に重きを置いた制度です。
この取り組みが他州や他国に波及すれば、仮想通貨は「投機対象」から「社会的に保護される財産」へと認識が変わっていくことでしょう。
今後の制度実装や運用の動向に注目しつつ、個人としても資産の管理と継承に備える姿勢が求められます。